匿名医師ブログ

こんにちは!匿名医師です、現役医師(専門医取得済)による日記です。一般の方からの質問に答えているのでちょっとずつ載せていきます。http://www.freelifedoctor.com/ よろしくお願いいたします!

痛みを感じない人、感じすぎる人。

世の中には「痛みに強い」とか「痛みに弱い」とよく言いますが、実際のところどうなのでしょうか?

極端な話ですが、痛みを感じない人、感じすぎる人、病気によってそうなってしまう方も実際いらっしゃいます。

 

まずは痛みを感じない、無痛症の例から。


英国スコットランドに住んでいる66歳の女性、ジョー・キャメロンは、手の関節炎で手術を受けた後、痛みを抑えるには強い鎮痛剤が必要だと麻酔科医に助言されて、こう言ってのけた。
「いくら賭けてもいいけれど、私には鎮痛剤は要りませんよ」
麻酔科医は経験上、術後の痛みが耐えがたいことを知っていたが、手術を受けたキャメロンの様子を見にきて目を疑った。

効き目の穏やかな鎮痛剤を処方しておいたにもかかわらず、それさえも服用していなかったのだ。
キャメロンはにっこり笑って言った。「だから言ったでしょう?必要ないって」
彼女は子どもの頃から気づかないうちに傷を負っていて、びっくりすることがよくあった。
長じて2人の子どもを産んだが、陣痛とも、分娩時の痛みとも無縁だった。
「痛みがどういうものか、わからないんです。人が痛がっているのはわかりますよ。顔をしかめて、とてもつらそうですよね、でも、私にはそんな感覚はありません」
キャメロンのように身体的な痛みをまったく感じない無痛症の人はごくまれにいて、研究者たちはこうしたケースを手がかりに、痛みの遺伝的なメカニズムを探ろうとしている。

英ユニバーコックスは英ケンブリッジ大学の博士研究員だった2000年代半ばから、キャメロンのような事例を調べてきた。

当時の指導教官ジェフリー・ウッズが、パキスタンの10歳の少年のことを知ったのがきっかけだ。

その子は赤々と燃える炭の上をはだしで歩いたり、腕に短剣を突き刺したりする路上パフォーマンスで稼いでいた。

コックスらが、その子と同じ家系の無痛症の子ども6人のDNAサンプルを入手して分析した結果、6人とも痛みの信号伝達に関わるSCN9A遺伝子に変異があった。
SCN9A遺伝子は、侵害受容器から脊髄へ痛みの信号を伝達するうえで欠かせないタンパク質の合成に関わっている。

そのタンパク質は、侵害受容器の表面にあって、細胞内にナトリウムイオンを透過させる「イオンチャネル」の役目を果たす。

そのチャネルにナトリウムイオンが流入すると、痛みの電気信号が発生する。

信号は侵害受容器の細胞体から細長く延びる軸索の内部を伝わり、脊髄のニューロンに受け渡される。
パキスタンの子どもたちは、SCN9A遺伝子に変異があるため、そのチャネルのタンパ
ク質が正常に合成されず、ナトリウムイオンが侵害受容器の内部に流入しない。

そのため侵害受容器は痛みの信号を出せず、舌をかんだり、やけどをしたりしても、痛みを感じないのだ。
「この非常に珍しい一族の研究の成果は、(無痛症を引き起こす)単一の遺伝子変異を特定できたことです。これで鎮痛剤開発の研究対象を絞り込めました。しかもそれは、言ってみれば人体での有効性が実証されているんです」とコックスは言う。

 

それとは逆のパターンもあります。

先天性肢端紅痛症という、SCN9A遺伝子の変異によるまれな疾患。痛みを感じやすいパターンです。

この病気の症状は無痛症とは正反対で、手足や顔に焼けつくような痛みを感じる。体が温まったり、ちょっと汗を流す活動をしたりしただけで、まるで手を炎にかざしたように、耐えがたい熱さと痛みに襲われるのだ。
米国ワシントン州タコマ在住の53歳のシティ・カレッジ・ロンドンの遺伝学者、ジェームズ・コックス率いるチームがキャメロンのDNAを調べると、FAAHとFAAH-OUTという隣り合った2つの遺伝子に2カ所の変異が見つかった。

遺伝子の変異によって、痛みを抑える神経伝達物質アナンダミドの分解が阻害されていると、コックスらは結論づけた。

 

パメラ・コスタはこの病気の患者で「逃れられない」痛みに苦しんでいる。

体が温まらないよう、オフィスの温度は16℃に保つ。
寝るときには、ベッドの周りで4台の扇風機を回し、エアコンをフル稼働させないと眠れないほどだ。皮肉なことに、いつも焼けつくような痛みを感じているために、無痛症の人たちと同様、熱いものに触っても気づきにくい。そのせいでコスタは1年ほど前、アイロンをかけているときに腕にやけどをした。


「いつも感じているのと同じ痛みだったので」気づかなかったと、コスタは話す。
米エール大学医学大学院の神経学者、スティーブン・ワックスマンは、コスタをはじめ紅痛症の患者を調べてきた。

先行研究で、この疾患の患者はSCN9A遺伝子に変異をもっと報告されていたが、ワックスマンらの分析でもそれが裏づけられた。

同じSCN9A遺伝子 チャネルは有望な研究対象となった。

オピオイドは、ニューロンの表面にある「オピオイド受容体」と呼ばれるタンパク質と結合し、細胞内のさまざまなタンパク質に影響を及ぼす。

細胞内のタンパク質には痛みの抑制を助けるものもあるが、この受容体はほかのタンパク質にも働きかけるため、痛みの抑制にとどまらず、快感を生む。

やがて体はオピオイドに対して耐性をもつようになる。少量では快感が得られなくなり、どんどん量を増やすようになって、依存症に陥るのだ。
リドカインなど既存の局所麻酔薬は、体内にある9種類のナトリウムイオンチャネルを無差別に遮断してしまう。

そのなかには脳の多くの機能に欠かせないチャネルもあるため、医師はこうした薬の使用を、手術などで一時的に他者の感覚を麻痺させる場合に限定せざるをえない。

製薬会社はほかのチャネルの働きを妨げずに、Nav1.7だけを遮断する化合物を探しているが、今のところ見つかっていない。
研究が進めば、より良い薬が開発されるだろうと、ワックスマンは考えている。

「依存性がなく、効果が高い、新しいタイプの鎮痛剤が生まれるでしょう。それがいつになるかは、まだ予想できませんが」

 

 

線維筋痛症多発性硬化症、他にも様々な人に理解されにくいが本人は疼痛に苦しんでいる方が山ほどいらっしゃる。

今後そのような方に新しい薬がもたらされることを願い、そして、周りの方々が理解してくれることを願って。

明るい未来を描いて。