風邪に抗生剤!アリ?ナシ?
風邪をひいて、抗生剤を処方されたことありますか?
私もあります。
日本の患者さんはしっかりお薬を出すと満足します。
けど、それは本当に必要な処方ですか?
No!
日本の風邪の標準診療では、一般的な風邪の患者の場合、抗生剤(クラリスロマイシンなど)や解熱剤(ロキソニン)、鎮咳薬(コデイン)、去痰薬(ムコダイン)やトラネキサム酸など多剤処方が多いです。
海外などではこのような処方をすると指導を受けることもあります。
なぜなら、感冒に対して抗生剤は本当は必要のない処方だからです。
ではなぜ日本の風邪診療は多剤処方が標準なのか。
薬をたくさん処方するのは日本の一つの文化であり、患者もそれを求めているという意見もあります。
逆に少ない処方であれば「過小医療」と捉え、十分な医療を受けられなかったと感じる患者もいます。
更には医師は経営的側面から、初・再診料に加えて処方箋料、院内処方なら薬剤料などを算定できることを考慮するのです。
しかし、風邪に多剤処方は必要ありません。
海外では「コデインは効果がない」、「抗ヒスタミン単剤では症状の改善はない」、「ムコダイン(カルボシステイン)はプラセボと変わらない」、「ビタミンC、経鼻ステロイドは効かない」とどれも否定的です。
解熱薬のみ症状緩和に効果があると唯一推奨されています(A判定)。
つまり、風邪に対するほとんどの薬物療法には、効果的についての科学的なエビデンスはないのです。
逆に、副作用、特に高齢患者では、抗ヒスタミン剤の抗コリン作用による急性尿閉や急性閉塞隅角緑内障に気をつけなければいけませんし、鎮咳薬として使われているコデインには呼吸抑制、過鎮静などの副作用があり、英米では12歳以下は禁忌となっています。
コデインの大量の摂取は「薬物依存のリスク」にもなり得ます。厚生労働省研究班が2018年に行った調査によると、日本の薬物依存の治療を受けている10代の患者のうち40%あまりは、依存のきっかけは違法薬物ではなく、コデインなどの市販薬の大量摂取であったとの報告もあります。
「日本人は薬が好き!」
それは確かです。
そのような患者に対しては、「delayed prescription」という方法があります。抗菌薬を処方しますが、一定期間(数日〜1週間)服用を待ってもらい、症状が継続、増悪した場合に患者の判断で服用してもらう方法です。
咽頭痛や中耳炎の患者に対する「抗菌薬投与群」と「delayed prescription群」を比較したところ、患者満足度はどちらも同等(91% vs 86%)である一方で、抗菌薬使用率は「delayed prescription群」で有意に減少した(93% vs 31%)とまとめられています。
また、抗生剤において日本の外来でよく用いられているのは、フロモックス、メイアクト、バナン、セフゾン、トミロンといった「第三世代」セフェムです。歯科でもよく用いられています。
こうした第三世代経口セフェムは、ものすごくたくさん使われています。
が、その大多数は誤用なのです。
フロモックスは世界のセファロスポリンのマーケット全体(点滴薬含む)の2.4%(年商2.5億ドル)、メイアクトは1.9%(年商2億ドル)を占めており、両者は経口セファロスポリンでダントツの1位と2位の売上です。
ですが、フロモックスもメイアクトもほとんど日本で独占的に売られている抗菌薬で、外国での市場はごくわずかです。
では、世界でほとんど使われていないフロモックスとメイアクトが、なぜ世界のマーケットの1位と2位を独占しているのか。
なぜ、それが日本でだけ使われているのか。
たとえば、「風邪」に対して。
メタ分析では、成人でも小児でも、かぜに抗菌薬を出した群と出さない群を比較した時、症状の改善には差が見られません。また、成人の場合は抗菌薬を出されたほうが倍以上副作用が出る確率が高かったとあります。
別のメタ分析では、抗菌薬はかぜの症状を抑えるのに少し役に立つが、薬の副作用(多くは消化器症状)に苦しむ人が増えてしまう、という結論でした。
他にも下気道感染である急性気管支炎も同様で、抗菌薬の効果はプラセボと差がなかったというエビデンスが繰り返し報告されています。
急性中耳炎や急性副鼻腔炎についても多くは抗菌薬なし、対症療法で治療できます。
また、もし抗菌薬を使うにしてもアモキシシリンのようなペニシリン系の抗菌薬が第一選択になります。フロモックスやメイアクトの出番はありません。
急性咽頭炎もウイルス性なら抗菌薬は使いませんし、細菌性ならペニシリンが選択肢になります。
歯科領域でも予防や治療に抗菌薬がよく用いられています。しかし、アメリカ心臓協会が出したガイドラインでは、ほとんどの歯科の診療では予防的な抗菌薬は出さないよう推奨しています。また、用いるとしてもアモキシシリンのようなペニシリン系抗菌薬が推奨されています。
口の中の細菌はグラム陽性菌が多く、グラム陰性菌に強い第三世代のセファロスポリンを用いるメリットはほとんどありません。
毛嚢炎、丹毒、蜂窩織炎といった皮膚・軟部組織感染症(skin and soft tissue infection: SSTI)などの感染症にもフロモックスやメイアクトといった第三世代セファロスポリンがよく用いられていますが、こういった感染症もほとんどがブドウ球菌やレンサ球菌といったグラム陽性菌が原因で、第三世代セファロスポリンは理にかなっていません。
どうですか?
要は知識があるかないか、です。
医師でも風邪と抗生剤をセットで考える方もまだ多くいるのです。
知識をアップデートさせないと、思わぬ副作用に苦しむことになります。
多剤耐性菌も多くなってきているご時世です。
なんでもかんでも抗生剤はやめましょう!
医師も患者さんも、知識を蓄え必要なベストな治療を続けていきましょう。
たまに町医者で、「抗生剤は出しませんから」とほとんど処方をしない医師も見受けられます。
私はそれをみて「かっこいい!」と思うのです。
病院としての利益より、適切な治療を優先させる、当たり前ですが、出来ていない医師は多く存在します。
もちろん抗生剤が有効な場合もありますけども、状況に応じて適切な、最高の治療を!